ゴーストキッチンの現状とお勧めスタイル
前回に続いてキッチンカー販売と併用して収益を上げるビジネスモデルについて説明します。「クラウドキッチン」「ゴーストキッチン」とか「ゴーストレストラン」「バーチャルレストラン」などと呼ばれる販売手法(どれも同じ)で、実店舗のないデリバリーに特化した販売業態です。
前回は仕込み場所を利用して、キッチンカーのメニューをテイクアウト・デリバリーを行う記事でした。今回はまだ物足りないあなたへ仕込み場所でさらにプラスアルファできるゴーストレストランの導入についてです。
拡大するゴーストキッチン市場
上記の表はデリバリー販売の市場規模と、下のパーセントは実店舗におけるデリバリー販売の比率です。2019年まで全体の3%程度の売り上げ比率でしたが2020年は2倍、2021年は3倍と急激な伸びを見せています。
実店舗を持たないゴーストキッチンも、米国の調査会社グローバルインフォメーションが発表したレポートではデリバリー販売に特化した(店舗を持たない)市場は2021年〜2027年の間も「年平均成長率13.5%の急成長」が見込まれる結果が出ています。
キッチンカー販売と併用して導入するかどうかはさておき、今後も成長を続ける販売業態なのは明らかです。
ゴーストキッチンのメリット
ゴーストキッチンのメリットはキッチンカーに似ていて下記の通りです
- 初期投資が少額
- ランニングコスト(毎月の固定費)が少額
- 開店までが短期間
- 調理に集中できる(人件費効率の良さ)
- 業態(メニュー)変化の自由度が高い
初期費用や固定費が少額で済むのはキッチンカーと一緒で大きなメリットです。開店もデリバリーサービスの登録が終われば、すぐにでも営業ができます。
毎日の開店準備や接客・閉店作業なども調理器具の洗浄以外は特になく、非常に効率的な営業ができるスタイルです。忙しくなった時にアルバイトを雇うとしても、繁忙時間はランチと夕食に集中しますから効率的に雇うことが可能です。
店作りでは「何屋さん」か分かりやすい外観や内装にしますが、ゴーストキッチンではそう言った必要がないです。新しいブランドを導入するにも。外観や内装を変える必要がなく自由度は高いです。
ゴーストキッチンのデメリット
デメリットはあまりありませんが、あえて挙げるなら下記の通り。
- 営業利益率が低い
- プラットフォームの取り組みに左右される
デリバリーサービスの手数料は38.5%。自社商品でも大きな利益の圧縮ですが、これにゴーストキッチンを手掛ける企業から業態をプラスするとロイヤリティ(歩合だったり固定だったり様々です)も引かれますので、営業利益はぐっと下がります。
ロイヤリティは10%程度が多く、プラスで固定のロイヤリティを請求する企業もあります。
毎月の売り上げに関しては、デリバリーサービスが行うプロモーションや優待セールなどに左右されるところが多いです。仮にイオンなどのショッピングセンターに出店していても、広告やイベントの反響次第で集客が違ってくるのと一緒ですから、特にゴーストキッチンのデメリットとはいえそうもありませんが。
デリバリーサービスが行き届いていない現状
上記の表は、実店舗におけるデリバリー販売額の占める割合(地域別)です。ご覧の通り北海道でデリバリー販売の利用が急激に浸透してきているのが目につきます。北海道から記事を書いているのですが、なおさら身近に感じるからかも知れません。
表には現れないのですが北海道では小規模な市町村にはデリバリーサービス自体がないのです。つまり、実際はこの表よりも大きなウェートを占めているといえるでしょう。
デリバリーサービスが地域まで行き届けば、さらに伸びる土壌がすでにあるのです。
いち早くリモートワークや生活スタイルの変化があった首都圏も高い割合ですね。若干地域差がありますが、デリバリーサービスの提供が地域に拡大すればまだまだ市場は伸びていきます。
マクドナルドの取り組み
アメリカのマクドナルドでは、いち早く(2019年に)将来的にデリバリー販売が売上の半分以上になるという予測を立てました。その取り組みとして自社で配送を行っています。国内のマックでもデリバリーサービスを利用しないで店舗として配送車を導入しているお店もあります。
20数年前に「ネット販売がリアル店舗の販売を超える」と聞いていた頃を思い出します。コロナ禍で拍車がかかりましたが、いずれにしてもデリバリーサービスは伸びる市場だったのです。
ロンドンの10ブランド取扱キッチン
デリバリーサービスの普及は日本より欧米の方が進んでいます。昨年のビジネスインサイダーで取り上げられていましたが、ロンドンでデリバリー専門のキッチンを提供している企業(グロースキッチン)があります。
10ブランドが入った施設では、それぞれの店舗よりデリバリー商品専属の調理スタッフが勤務しています。1日に少なくとも800件の注文をこなしているとのこと。ロンドンで2件構えるグロースキッチンは今後二年間で40拠点オープンする計画です。
前述のマック同様、海外での迅速な動きは少し遅れて日本国内にも訪れるでしょう。
単体ではなく複数の業態を導入する
ゴーストキッチン導入は一般的に、単一のブランドではなく複数の業態を持つこと(プラットフォーム)が望ましいです。理由としては複数ブランドを持った「プラットフォーム型」と、「単一ブランド」では下記のような違いがあります。
比較項目 | プラットフォーム型 | 単一ブランド |
---|---|---|
初期費用 | ▲(高め) | ○(低いところが多い) |
ロイヤリティ | ▲(高め) | ○(低いところが多い) |
オペレーション | ◎(2分程度の調理時間が多い) | ▲(確立されていない事が多い) |
売上 | ○(複数業態で高くなる) | △(導入ブランドによる) |
人件費効率 | ◎(作業効率高い) | △(導入ブランドによる) |
ノウハウ・SEO | ◎(ノウハウ豊富・SEOも) | △(SEOには弱い) |
導入までの時間 | ◎(二週間程度) | △(導入ブランドによる) |
補足すると、初期費用や毎月のロイヤリティはプラットフォームは高めです。その分、オペレーション(調理時間)が確立されていて一人当たりの売上高は伸ばせます。(人件費効率が高い)デリバリーサービス上でのSEOの上げ方や、トラブルやレビュー対応へのノウハウもあります。
導入まで二週間程度(長くても一ヶ月程度)なのもプラットフォーム型の魅力です。経理も一括で請け負っている場合があり、仕入れやロイヤリティなどをそれぞれ精算しなくても残った利益だけを振り込んでくれるシステムもあります。
プラットフォーム型は売り上げに対して20%程度しか利益になりません。しかしオペレーションが確立されていないワンブランドを捕まえてしまうようなリスクもありません。さらにワンブランドにこだわる理由が「有名だから」というのでしたら辞めておきましょう。
ゴーストキッチン上では多少名前が知れているくらいなら、そこまで売り上げに差は生まれません。知名度よりも地域で競合の少ないデリバリーメニューを導入できるかの方が大切です。
ゴーストキッチンのプラットフォーム
導入は至って簡単です。ゴーストキッチンやバーチャルレストランで検索したらすぐに出てきます。お問合せから導入まで、フォーマットが出来上がっている企業がほとんどですから一ヶ月もかからずに開業できるサービスも珍しくありません。
代表的な大きなプラットフォームは以下の2社。
- ご近所キッチン
- バーチャルレストラン(USENとも提携して強化しています)
まだ著名なプラットフォームはいくつかあるのですが、導入している飲食店経営者仲間がいないので自信を持って紹介できないので割愛しました。
重要:導入にあたって検討するポイント
5つのポイントをしっかり確認する
導入するかどうかの判断基準は以下の5つ。それぞれポイントがありますから、しっかりと確認してみてください。とても重要です。
- 初期費用
- ロイヤリティ
- プラットフォームの姿勢
- アルバイトの雇用
- 拠点の立地
検討事項①:初期費用
複数のブランド(看板)を導入して販売するには初期費用の問題が大きいです。この費用はそれぞれのブランドやプラットフォームが独自に決めています。
幅はありますが、ざっと伝えると下記の通りです。
- ワンブランド:0円〜50万円
- ワンブランド追加で20万円〜30万円
- 3ブランドセット:40万円〜120万円
いろんな提供企業を見ると現在(2023年)は、このくらいの価格が相場でしょう。
この先はどんどん安くなって行きます。というのも、提供側に回る企業は増え続けていますし、そもそも毎月のロイヤリティが目的ですから導入費用はゼロでも構わないのです。
さらに輪をかけて何かしらの名目で初期費用を徴収するところはやめておきましょう。
検討事項②:ロイヤリティ
毎月定額徴収するパターンと売上(または仕入)に応じて徴収するパターンがあります。中には両方徴収する欲張りなところもありますが。
ここで気をつけたいポイントは、毎月徴収は何%になるのか?
変動のケースでロイヤリティ10%だとすると100万円売り上げて10万円です。100万円ワンブランドで売り上げるのはかなり優秀です。地域差はありますが、10万円の固定ロイヤリティは高いといえます。個人的には5万円でも高いという感覚です。
変動パターンの場合は、原価率と合わせた割合を見ることです。
仮に売上の5%がロイヤリティだとしたらお手頃と感じますが、商品原価はいくらなのか?
ロイヤリティと別れているだけで仕入れにも提供側の利益が含まれています。
商品原価が20%だとしてロイヤリティ10%ならデリバリーサービス38.5%合わせて68.5%控除されます。商品原価35%でロイヤリティ5%なら78.5%です。
ロイヤリティではなく、自社に残る利益率から判断しましょう。
検討事項③:プラットフォームの姿勢
顧客と一緒にさらに伸びていこうという企業は、ゴーストキッチンで販売をする一軒一軒に様々なノウハウ提供やサポートが充実しています。
これはフランチャイズの原則ともいえますが、販売店にしっかり利益を取ってもらうことや売上が伸びることで長く契約が続き、結果的に提供社にも販売店にもメリットがあるという考え方からです。
この理念をしっかり持った提供社なら、トラブルも迅速で親身に対処してくれるでしょう。
プラットフォームを決める際には、毎月の負担額と合わせて契約前にサービスを説明してくれるのでしっかりとその姿勢を確認してください。
検討事項④:アルバイトの雇用
アルバイトを雇用する際には忙しい時間がわかりやすいので、その前後も含めて3時間程度の短期アルバイトをお願いしてみてはいかがでしょうか?売上が好調でゴーストキッチンのブランドを増やす時、一人では手が回らないとなってからでいいかと思います。
アルバイトがいると自分の動きも良くなりますし、事業に対する意識や責任感も高まるでしょう。キッチンカーの手伝いなど二人三脚で成長していける人が見つかるといいですね。
雇用でのポイントは、デリバリーサービスやゴーストキッチンは利益が薄いことを忘れないこと。
売り上げが伸びてくるとつい気持ちが大きくなりがちですが、実際に手元に残る利益は薄いのでどんぶり勘定にならずしっかりと利益と人件費を照らし合わせて雇用してください。
検討事項⑤:拠点の立地
拠点はオフィス街や大手企業の宿舎が多い地域などが、半径3km以内にある場所を選んでください。これは配達員が自転車などで10〜15分以内に配達できる地域での販売になるためです。同じ市内でも郊外だと中心部からの注文は取れません。
また、郊外で注文も少ない地域だと配達員が揃わずにサービスが早く終了してしまうこともあります。(画面上は店舗閉店中の表示になります)
拠点の立地も見落としがちなのでしっかり押さえておきましょう。
サービス導入のトレンドは?
現在(2023年)のゴーストキッチン導入で目立つスタイルは、「3ブランドセットで導入」というスタイルです。ワンブランドではそこまで忙しくなることはあまりないです。
提供側のプラットフォームもそうしたデータがわかっていますので、複数導入を1ブランドの初期費用で提供することが多いです。
複数ブランドで月商100万円を目標にするのがトレンドです。
利益は20〜30万円程度でしょう。
複数ブランドを最初から導入してもオペレーションはとても簡単なので問題ないです。業績と仕事量のバランスを見てさらにブランドを増やしていくのもアリでしょう。
キッチンカー販売との併用
キッチンカーとゴーストキッチンの併用ですが、営業終了後に「仕込み場所で後片付けや事務作業をしながら行う」という趣旨では営業時間の短さから上記のような売り上げ目標は現実的ではありません。
最初はテイクアウトや自社商品のデリバリーサービスから始めるべきですね。お客様のニーズが高く、もうワンランク上の売り上げを目指す時に導入というのが現実的です。
無理に始める必要ないかなと感じるかもしれませんが、売り上げ以外のメリットもあります。
導入のタイミング
導入のタイミングは、テイクアウトや自社商品のデリバリーサービスでアルバイトの給料が捻出できるようになってからでしょう。
自社商品のデリバリーサービスもそうですが、ゴーストキッチンの営業時間の長さで一部のデリバリーサービスでは検索順位が上昇する加点になります。(SEOですね)
テイクアウトや自社商品の販売にも相乗効果が生まれます。しっかり賃金の支払いを確保できてから、営業時間を片付け時間だけでなく昼食・夕食に対応することを決断してからにしましょう。
キッチンカー販売へのメリット
雇用を決めてゴーストキッチンを導入をすると以下のメリットがあります。
- ゴーストキッチン商材をキッチンカーで販売
- キッチンカー販売の補助
ゴーストキッチンの商品をキッチンカーで販売することは、ほとんどの場合認められます。調理時間も短く保存も効くのでキッチンカー販売にはうってつけです。
営業するキッチンカーのイメージと合う商品であれば、ぜひ導入してください。販売価格はデリバリー手数料が掛からないのでお手頃な価格に設定できるはずです。
アルバイトの存在は自分自身のためにもなりますし、モチベーションにも繋がるはずです。
テイクアウト・デリバリーだけでなく、キッチンカー出店準備や後片付けなど大きな力になってくれるでしょう。意識の高いアルバイトでしたらアイデアや意見もくれるはずです。
導入条件とタイミング
キッチンカー販売との二毛作ビジネスとしてゴーストキッチンについて紹介しましたが、大きなポイントは「導入のポイント5つ」と「導入のタイミング」です。実店舗での失敗例が多いので、しっかり順を追って事業を伸ばしていって欲しいです。
また、仕込み場所についてのお問い合わせも多かったので引き続き次回も昭和のネーミングですが、二毛作販売の記事の予定です 笑。
昨年(2022年)の秋あたりから、世の中のコロナに対する意識も変わってきたのでイベントでの集客が見込みより多いということが続いています。自粛していたイベントも3年ぶりというイベントが多く、かなりの賑わいが見込まれます。
例年よりもイベント情報にはアンテナを張って、いち早くキッチンカー出店カレンダーを埋めていってくださいね。