間違えやすいキッチンカー業界
「今からキッチンカーを始めるのは遅い」「そろそろブームも終わる」と、開業へ踏み切るのに気になるところです。海外のニュースサイトを見ると2026年まで成長という予想もありますが、日本国内ではどうなのでしょうか?
現在(2023年2月)の業界の状況と、これから開業するにあたって「始める時期」がいかに大きな問題ではないかをお伝えしていきます。
キッチンカーは増え続けているの?
キッチンカーの新規開業台数は2022年も増え続けていました。地元(人口35万人)の保健所に昨年の春に問い合わせた段階で月間30台は新規登録に来るとのことでした。
肌感覚では2021年に比べて2倍は増えた感覚があります。
2022年の統計がまだ出ていませんが、東京都の統計では下記のグラフでわかるように2021年9月の段階で過去最高の伸びを見せています。
10年間で2倍以上になっていますが、それよりもコロナ禍の2020年から二年間だけで増加台数の半分以上を占めています。2022年も統計が出たらお伝えしますがかなり増えているはずです。
現在製作中は3ヶ月待ち
全国販売しているキッチンカー製造を手掛ける企業に聞いたところ、昨年、需要の要求に応えて工場の敷地を2倍にしたのですがそれでも納車まで3ヶ月待ちの状況だとのこと。今年に入っても開業ラッシュは続いています。
今から開業は遅い?
昨年も一昨年も「今から始めると遅い」というフレーズはよく耳にしました。今さら過去には戻れないので、どのタイミングでも今やるかやらないかの話ですね。
僕の周りを見渡してもこれから開業する人は結構います。春に向けて準備真っ只中の人もいればこれから車両を決めるという人もいます。今からのタイミングが早いか遅いかは捉え方次第です。
早い遅いは重要な問題じゃない
市場の成長よりも新規開業のペースのほうが早いのは間違いないです。それでも市場が飽和状態になったわけではありません。新規で開業して試行錯誤しながらよくしていく時間はあります。実は開業の時期が早い遅いというのはあまり重要ではありません。
開業時期よりも大切なのは、開業となれば事業ですから「儲かりそうだから」という軽い気持ちで始めないで、しっかり一つ一つ高めていく気持ちがないといずれにしてもうまくはいかないでしょう。
簡単に儲かるという気持ちの方が問題です。
開業時期で差があるとしたら
つい最近始めたキッチンカーが、長くやっているキッチンカーに比べてハンデがあるかどうか?営業の場面では正直ほとんどハンデなんてありません。
開業時期でハンデがあるとしたら、
- 横のつながりがあるか
- SNSのフォロワーが出来ているかどうか
営業面で大切なこの差は確かにあります。
出店先の売れ行きや、出店募集の情報は横のつながりが広いほどたくさん得られます。
キッチンカーの告知は広告媒体よりもSNSが圧倒的に効果がありますので、長く営業しているキッチンカーの方がフォロワーも多いでしょう。
この2点以外はハンデなんてないと思って大丈夫です。
克服するには開業前からキッチンカーのオーナーに挨拶に行ってもいいですし、SNSを始めて告知からスタートしていったっていいんです。
キッチンカー向きの性格は気にしない
「キッチンカー販売に向いている人」としていくつか傾向はあるようですが、キッチンカー販売では大きな差はつきません。大きな声でハキハキと笑顔でっていうのは接客の第一歩ですが、これさえ身についていれば販売員によって売れ行きに大きな差は出ません。
既存の店舗ならもちろん重視されます。お客様の名前やオーダーを憶えて信頼関係を築き、リピーターになりヘビーユーザーとなってファンになるっていう過程がキッチンカー販売にはありません。
お客様とは信頼関係があった方がもちろんいいですが、いつどこに出没するかわからない移動販売ですから、販売に直結するのは打ち出し方や見た目といった要素の方が大きいです。
性格がキッチンカー販売に向いているかも気にしなくていいですよ。
(最低限の接客は身につけましょうね)
開業が遅いから淘汰されるわけじゃない
市場の成長より早いペースでキッチンカーが増えているので、普通に考えたらどこかで成熟期を迎えて淘汰が始まるということです。
淘汰される事業者は新参者なのでしょうか?
決してそんなことないですよね?
数の問題ではなくて、もっと本質な部分を考えていきましょう。
お客様のニーズが変わる
供給過多で飽和状態になった時はどうしたらいいか。販売側の視点よりもお客様目線で考えないと出口を間違えてしまいます。
いくつかの事例やデータにヒントがありますので紹介します。
現在のキッチンカーの立ち位置はここ
昔から屋台があって今はキッチンカー。どちらも移動販売車のことです。何が違うのかといえば、キッチンカーは調理をするっていう答えを見かけますが、屋台だってやってます。
コロナ前にはオフィス街にワンコインランチなどの移動販売車が増えてよく報道されていました。それとはどう違うでしょう。
キッチンカーという名称こそ違いますが、本質的には同じ飲食の移動販売車です。
大きな違いは派手な見た目やメニューの多様化、コロナ禍で注目を集めたこと。どこか非日常的なワクワク感が身近にあるから人気を集めているのだと思います。
それではキッチンカーの立ち位置はこの先どこに向かうでしょうか?
お客様がキッチンカーという存在に慣れてくると、プチレジャー感は薄まるでしょうから現在とはニーズが変わってくるはずです。
お客様のニーズは意外なところにあります
「近所にキッチンカーがあれば利用するか?」という調査で、83.5%は利用したいという結果が出ています。しかももう一年以上前の調査結果です。
利用する理由としては、
- コンビニのご飯やいつものランチに飽きていたから(ランチ難民)
- いつもと違うものが食べられて新鮮
- コロナが気になるのでテイクアウトできて嬉しい
- 出来たての美味しい料理が食べられる
- ご飯を作るのが面倒な時に便利
- お祭りのような感覚でワクワクする
販売ルートを決めて、頻繁にではなく定期的に廻ることが出来れば今後の営業に活きてくるのではないでしょうか?
営業していると「イベントに参加」「集客がある施設」を念頭に出店先を探します。たくさん売れた方がいいから当然ですね。しかし、キッチンカーのニーズは自宅やオフィス街にもこれだけあるということです。
以前、高齢者向けの販売「移動スーパー・とくし丸」を特集したことがありましたが、高齢者に限らずお客様からすると「お店の方が来てくれるというサービス」にニーズがあるということです。首都圏ではオフィス街にキッチンカーを出店することが日常的ですが、何も首都圏でなくても地域のオフィス街や住宅街でも構いませんよね。
ただしこうした定期的な出店の場合は今まで以上に接客もしっかりした方がいいです。
前述したようにリピーターからファンへの階段を登ってもらうのには接客は必須です。
福祉施設のニーズは高い
いくつかの記事でも紹介してきましたが、福祉施設も定期的な出店先にしましょう。
利用者さんの楽しみを提供したいと考えている運営者は多く、キッチンカーがやってくるというのは運営の方にも利用者さんにも喜ばれるサービスとなります。
単体の施設に行っても大した売上にならないと足が向かないかもしれませんが、訪問できる施設を営業をかけて増やしていけばいいです。複数施設を運営しているところもありますので、一気に増えることもあります。
施設のいいところは事前に利用者さんに予約を取れるのでロスがないことと、短時間で営業が終わるので普段できない業務をする時間に充てることも出来ます。
行政の支援と要請
コロナ禍になって間もなく飲食業界への融資基準の緩和と金利の優遇措置がありました。また2021年6月には食品衛生法が大きく改正されました。この改正は実質「規制緩和」です。
どちらも飲食業界への国からのバックアップで、結果キッチンカー開業はグッとハードルが下がりました。
キッチンカーが流行り出したのにはこうした背景もあったのですが、同時に国が求めたこともあります。これから開業する人はしっかり対応することが事業として基盤になります。
融資の特例と補助金の期限
いわゆる「コロナ貸付」という緊急の制度資金が設けられて2年ほど経ちました。一部の制度資金は終了していて、金利優遇や支払い据置もそろそろ切れて利用した人は支払いが始まる頃です。
飲食業界というのは今まで融資の基準が一番厳しい業種でした。資金繰りが厳しくても100万円単位でも借りれないケースが多かったです。今回のコロナ貸付は一気に2,000万、3,000万という単位で借りれるケースが続出しました。起業して25年以上経ちますが初めて見た飲食業への手厚いバックアップでした。
話せば長くなるのでその理由は省きますが、キッチンカー開業には大きく影響しました。また、補助金も制定されて開業に向けて一部国が負担してくれるという制度も大きな後押しになりました。この補助金はまだ利用できますのでぜひ活用してください。
今回の制度資金や補助金は「時限立法」でいつか世の中の情勢で終了を迎えます。今後さらに世の中がパニックになるような事態がない限り、この先そう簡単にやってくる制度ではありません。
※全国中小企業団体中央会:ものづくり補助金
規制緩和と衛生管理の徹底
食品衛生法の改正は、移動販売における調理を細かく分類していたものを一つの許可にまとめたものです。つまりキッチンカーでの開業が簡単になったということです。
間口を広げた分、衛生管理は以前より厳しい基準が設けられました。これは毎日の衛生管理を行うHACCP(ハサップ)です。開業の際には保健所から必ず説明を受けますので衛生管理をきっちり行なってください。
※厚生労働省:HACCP(ハサップ)
飲食業が変わる起爆剤に
規制緩和という恩恵を受けた代わりに、これから「返済」と「衛生管理」があります。
きちんと事業としてどちらも滞りなく進める事が、業界全体のマイナスイメージを払拭することとなります。飲食業界は源泉所得税の納付や決算もしていない事業者が多すぎました。業界が事業としてきちんと仲間入りするチャンスです。
対応できないところから淘汰されるはずです。これからキッチンカーを開業するのですから、最初からこの管理が当たり前だと身につけてしまってください。
キッチンカーもお店として衛生管理が行き届いていると思われるチャンスなのです。
有名店の出店と廃業率はどうなの?
モスバーガーやいきなりステーキなどの有名店が続々とキッチンカー業界に進出してきています。ニュースなどで見た事があるかと思います。有名店の参入で同じメニューを扱っている場合は時に気になるかと思います。
また、キッチンカー開業で失敗した例が多かったり廃業率が高いという情報も目にした事があると思います。どちらも内容を触れておきます。
有名店の出店は気にせずに
結論からいえば、有名店の進出は気にしなくていいです。
唯一、気にするケースとしては地元にない有名店が出店するイベントです。
例えば吉野家にしても、日常で味わえる超有名店ですからキッチンカーが集まったイベントで需要が高いとは思えません。これといって魅力的なキッチンカーが無かったり、いつもの味が安心なお客様はもちろん注文するでしょうが大多数ではありません。
ただし、吉野家がない街なら行列になるでしょう。もし同じメニューを扱っていて同じイベントに出店するのなら大きな打撃があるでしょう。出店の際に気をつけてチェックした方がいいかもしれません。
非日常の楽しさを味わいにきているお客様が多いので、有名店進出のニュースが死活問題になることはありません。
キッチンカーの廃業率は高い?
はい。高いです。
理由は志が低いからです。
安易にはじめて安易に辞める人が多いとしか言いようがありません。
ハードルが低いこととリスクが小さいことが廃業率の高さに直結して現れてます。
こうした統計は数字だけじゃなく背景や現場を知ると間違わないで理解できますよ。
何か買い物に出かけた時に対応してくれた販売員が今日入ったばかりなのか、バイトなのか店長なのかはわかりませんよね。っていうかお客様からしたら、だからどうしたって話です 笑。
もちろん出店初日は、はじめてのことも多く振り返ったら失敗したと少し凹むかもしれません。これは仕方のないことで日々改善のスピードを上げるしか解決策はありません。しかし、開業したてだからといって他に大きなハンデは見つかりませんよ。
「ずいぶん売れてるな〜」というキッチンカーがまだ開業間もないっていう事はよくある事です。なので、開業に早いも遅いもないのです。