資金力に乏しくブランド力もない環境は、起業家としては当然のです。
零細企業からスタートの起業家には、ぜひ覚えておいて欲しい経営方法がランチェスター戦略と呼ばれるものです。
ちなみに、ニュースで報じられる税制や政策などはすべて大企業向けです。
日本にはこうした大企業は全体の1%もないので、中小零細企業と呼ばれても扱われても全然恥ずかしいことありませんよ。
弱者の零細企業の方が、圧倒的に世の中には多いのですから。
それでは弱者の戦術、ランチェスター戦略について説明していきます。
ランチェスター戦略とは
強者の戦略・弱者の戦略
第一次世界大戦の航空戦でイギリスのランチェスターという人物が、被害状況の統計をとった結果から導き出された傾向のことです。
「同じ武器を使用するなら勝敗は兵力数によって決まる」という結果。
この結果を受けて、経営戦略に発展させたのがランチェスター戦略です。
ランチェスター戦略は、「強者の戦略」と「弱者の戦略」に別れます。
強者の戦略
- 確率戦(資金や人員で優っているので局地戦を意識しないこと)
- 誘導戦(自分の土俵で常に戦うこと)
- 広域戦(戦いは広い範囲で戦うこと)
- 遠隔戦(一騎討ちになるような場面を作らないこと)
総合力で勝る強者の戦い方は上記の戦略になります。
この効果は、次に触れる「弱者の戦略」で戦った場合と比べて2乗の効果が出る結果となります。
2倍でなくて2乗です。圧倒的に結果に違いが出てきます。
数式で表すと、戦闘力=武器効率×兵力の2乗。
弱者の戦略だと、戦闘力=武器効率×兵力。
仮に兵力に100人の数字を入れると戦闘力の違いは10,000対100です。
戦術でこれだけの差が出るのですから、戦略を決定する指揮官(経営者)の責任は大きいですね。
弱者の戦略
- 一騎打ち戦(競合相手が少ないニッチな分野で戦うこと)
- 陽動戦(相手の手法にとらわれずに独自路線で戦うこと)
- 接近戦(お客様との距離をより近づけて戦うこと)
- 局地戦(一点に人員などの資源を集中させて戦うこと)
兵力数(資本力や人員)でのハンデがある場合、いわば原始的な戦い方の方が弱者にとっては差がつきにくくて勝てるチャンスが生まれます。
なおかつ、局地戦に持ち込むことです。つまり一点突破。
強者に挑むには、何かに特化する戦略が大切です。
日本の戦国時代や三国志などの史実の物語で、兵力が少なくても戦術で勝つような痛快な場面がありますよね。
そんな痛快な戦いが出来るようになるために覚えておきましょう。
強者の戦略で戦いを挑んでも勝ち目はないので、必ず一点集中突破型を意識して営業しましょう。
7つのシンボル目標
ランチェスター戦略では7つのシンボル目標があります。
マーケットシェアごとに特徴が分かれていますので参考にしてください。
事業からの撤退を判断する基準として、「存在目標」と「拠点目標」で意見が別れるところです。
ポジションの状況と市場の動向からお伝えします。
- 上限目標(73,9%)
- 安定目標(41,7%)
- 下限目標(26,1%)
- 上位目標(19,3%)
- 影響目標(10,9%)
- 存在目標(6,8%)
- 拠点目標(2,8%)
上限目標(73,9%)
この数値まで到達したら、もう一人勝ちの領域です。
安全地帯といえますが、市場自体は成長が鈍化する危険性があります。
安定目標(41,7%)
目指すべきポジションはここだと言われています。
41%以上もシェアを獲得したらもうトップでしょうが、程よく後続も控えていて刺激があり市場も鈍化しません。
下限目標(26,1%)
この時点ではその分野でトップかどうかはわからないので、どこがトップを取るか凌ぎ合う激戦の分野になります。
市場の成長も切磋琢磨して伸びることでしょう。
上位目標(19,3%)
弱者の中ではトップクラスのシェアになっています。
業界で強者になれるかどうかの分岐点と言えるかもしれません。
市場は、まだまだ強者たちの影響次第な部分が大きいですね。
影響目標(10,9%)
安定的ではありませんが、その他大勢の中から抜け出した頃です。
市場への影響も多少なりとも与えられ、将来的に強者になり得る立場です。
存在目標(6,8%)
同業者の中では存在を認識してもらえるくらいのポジションです。
市場では、そこまで認知も影響も与えられるまでではありません。
拠点目標(2,8%)
撤退しないで続けていくために最初に掲げる目標です。
まだまだ市場に影響はないので、いかに生き残るかしっかり足元を見つめるポジションです。

ランチェスター戦略で成長した企業
- ダイソン(世界的に大ヒット中の掃除機メーカーですね)
- ハウステンボス(18期連続赤字から90億の黒字企業へ)
- QBハウス(誰もが知る1,000円カットの美容室)
- トヨタ・パナソニック・アサヒビールなど
ダイソン
世界中で人気の1993年創業のイギリスの掃除機メーカー。
創業から、わずか3年でイギリスでのシェアが50%を超えます。
日本上陸から8年で日本国内のシェアも3割を超えました。
さまざまな性能も当時としては、間違いなく日本製の掃除機の方が優れていたはずです。
(研究開発費が莫大なので、現在はそんなことはありません)
「紙パックが不要で、吸引力が落ちない掃除機専門メーカー」という特徴を徹底的に前面に押し出していました。
しかも価格が通常の掃除機よりも何倍も高い。
価格にしてもデザインにしても思いっきり差別化していて、ニッチな産業での局地戦を勝ち抜いた企業ですね。
個人的には、アップルが出た時の感覚とダイソンは似ています。
- 今まで見たことのないデザイン
- 紙パックを必要としないので吸引力が変わらない
- 家電メーカーでなく掃除機専門のメーカーと認知された
ハウステンボス
18期連続赤字のテーマパークが、海外旅行で業界一位のH.I.Sを創業した澤田秀雄さんを迎え、ランチェスター戦略を推し進めて黒字化しました。
それまでは2,200億円もかけた負の遺産として、全国的にも悪い印象が広まっているという逆境にもかかわらずです。
黒字化に向けてテーマパークではなく都市として位置づけることと、九州という立地から国内ではなくアジアに目を向けたことなど。
都市として位置付けたからこそ、テーマパークとは縁のない国際会議や展示会・見本市などを誘致できたのでしょう。
当時は赤字でテナントの空きもあったことから、そうしたスペースを大胆に無料の公園にすることで集客を高めたことも大きいです。
坪効率などではなく、一つの都市としてというコンセプトが伝わってきます。
通常のテーマパークの枠組みから外れた立ち位置と、アジアに商圏のターゲットを絞った局地戦の大勝利ですね。
北海道旭川の旭山動物園も同じことが当てはまりますね。
動物の生活活動を見せることに特化したことで大成功しました。
QBハウス
今までの美容室のイメージを、180度反転させたようなビジネスモデルを作り上げたのがQBハウスです。
「時間もお金も掛けて綺麗になる」という、美容室に行くことは一つのイベントという従来の認識を変えました。
「時間もお金も掛けずにちょっと整えるという便利さ」を追求しているので、駅に店舗を構えている理由が伝わってきますよね。
どこかステータスのようなイベントごとを、思いっきり便利さに振り切るとこうなったという感じですね。
QBハウスの事例も、差別化と便利さに特化した局地戦の大勝利ですね。
トヨタ・パナソニック・アサヒビールなど
ランチェスター戦略は、日本では1970年代に注目されました。
トヨタやパナソニックなど圧倒的な大企業に成長しましたが、当初はランチェスター戦略で推し進めていたことで有名です。
1970年代からは50年が経ちますが、経営戦略を取り入れてこれだけ大きな成果が出る企業もあるということです。
もちろん導入した全ての企業が結果を出しているわけではありませんが、今経済を引っ張っている大企業のルーツだと知るだけでも取り入れたくなりますよね。
ただ闇雲に日々努力するよりも、しっかりとした「やり方」を持っていた方が効果的だということがわかります。

ランチェスター戦略のまとめです
- 一騎打ち戦(競合相手が少ないニッチな分野で戦うこと)
- 陽動戦(相手の手法にとらわれずに独自路線で戦うこと)
- 接近戦(お客様との距離をより近づけて戦うこと)
- 局地戦(一点に人員などの資源を集中させて戦うこと)
- 7つのシンボル目標
- ランチェスター戦略の成功事例
- 現在の大企業のルーツもここにあります